作者 : 愛聡 sama
[ Damn ! ]
―Sexy, but no sex(エロいのがあるようでぶっちゃけ無い)
昼下がりの太陽光が、殺風景な部屋に差し込む。
ノートパソコンが置き去りにされ、ムービーカメラの三脚が立つ床に、マットはブーツのまま座り込んでいた。
室内なのにゴーグルをかけたままで、手にしたポータブルゲーム機に夢中になっている。
ゲームのキャラクターが画面内の街中を急ぐ。
――ここで大通りに出て右に走って……
次の次の建物。
裏路地に曲がって、扉を開ける。
誰かが俺を呼んでる気がするけど、あ、やば、違う! 三番目の扉……
あぶねー。雑魚キャラごときにやられるところだった。
タイミングが難しくて中々取れないアイテムなんだ。
なんかうるさいな。名前呼ばれてる。でも待ってくれよ。今、ここなんだ。
壁伝いに……一匹やり過ごして……これだ! 二匹目!
「マット!」
耳をつんざく怒声と共に、マットの視界からゲーム機が消えた。
見上げるゴーグルを覗き込む、火傷跡の中の鋭い眼光。
「何すんだよ! メロ! っざけんな、返せ」
メロが右手高く掲げているゲーム機に、マットは立ち上がって飛び付こうとした。
「ふざけてんのはてめーだ!」
ドン! 胸を突かれてスリムなGパンが尻餅をつく。
視界が開けて、ゲーム機を片手に立ちはだかるメロの怒った全身が、マットのゴーグルの奥に映り込んだ。
髪の毛がふわっと浮き上がって、細められた目から一筋の光が差して、薄い唇が何かを求めるように歪められて、大きく開いた足が誘うようにしなやかで……。―
―知ってるか? メロ。お前のそういう顔、嫌にセクシーなんだぜ?
そういう顔されると、どうせもうオーバーになってるゲームなんかどうでもいい。
マットは頭を掻き、俯きながらゆっくり立ち上がった。
メロに近寄り、怒り冷めやらぬ形相でゲーム機を掲げる肩を抱く。
「ごめん。メロ。何?」
低く柔らかな声音をブロンドの隙間に流す。
鼻先の不ぞろいにカットされたボブは、なぜかこんなところなのにチョコレートの甘い香りがする。
振り上げられている腕に向ってマットの黒いグローブが辿っていった。
肩口から露わになっている二の腕。
筋肉が張り詰めて、肌が柔らかくて……。
耳元の高鳴りつつある脈音を聞きながら、短いグローブの裾、華奢な手首に辿り着く。
と、ブロンド頭が揺れてボーダーの体から黒いレザーが引き離された。
せっかくマットが辿り着いたゲーム機を振りかぶって、メロは窓の外に放る。
「あああああ!?」
「お預けだ」
「おお、お預けって!」
マットは慌ててメロから離れて窓にしがみ付く。
ゴーグルを額に上げて窓から乗り出し、覗き込んだ。
階下のまばらな人通りの間。
アスファルトの上。
バッテリーの飛び出ているゲーム機が小さく見える。
「はぁぁぁ」
窓の下に座り込むマットの前に、ごついブーツと真っ黒のレザーパンツが立ちはだかった。
「お前の「ごめん」はいっつも口先じゃないか! ゲームばっかやってないで仕事はちゃんとやってくれよ」
怒鳴られて、マットはちょうど目の前にきたレザーパンツの編み上げにぼふっと顔を埋めた。
コツっと額のゴーグルがベルトの豪華なバックルに当たる。
「でもさぁ……」
メロはすぐさま後退さり、ボーダーシャツは床にドタっと落とされた。
――もう。最悪(Damn)!
The End