Dripping of memories

君の十字架

※ヤオイ要素が強くなっているので苦手な方は読むのはご遠慮ください。

No07:理解者

ウィンチェスターの孤児院。

幼少期。
いつの間にか、そこにいた。
その前の記憶なんて、有るようで無い。

ただ、とても寒かった。



「…」

初めて連れて来られた日の事を思い起こしながら、メロは鉄格子の門を押して庭に入る、多少距離をあけてマットがメロについてきていた。

ニアは急な用事が入ったらしくレスター達と別所へ向かい、メロとマットは先に孤児院に到着していた。

「寒いね」

マットがタバコをふかしながら、小さくそう呟いた。メロは振り向かずに、静かに頷いた。

「ここに初めて来た日みたいだ…」
「メロって何歳の時に来たんだっけ?」

「覚えてないな」
「6歳くらいじゃないか?俺が来たのと、同じくらいだっただろ?」

「どうでもいい」
「初対面の時、メロに言われた一言が ” 頭悪そうな奴 ” だもんな…」

「よくそんな事を覚えてるな?記憶に無い」
「それなりショックだったからね…」

マットは少しうつむいて苦笑いしながら、タバコを地面に落とし、ブーツで踏んで火を消した。

庭をつっきって孤児院に入り、ロジャーのいる部屋へ向かう。二人の足音がバラバラに響き渡っていた。遠くで子供達の声が聞こえる。

部屋のドアノブに手をかけ、グッと回してドアを開ける。中に入り、ギィィと鈍い音のするドアを静かに閉めた。

目の前には、イスに座って仕事をしているロジャーの姿があった。まるで昔と変わらない姿に、どこかホッとする。何から話せば良いのか分からず、しばらく何も言わずに佇んでいると、ロジャーは目の前に現れた二人を見て、すぐにイスから立ち上がり、しわくちゃの顔を更にしわくちゃにして側まで来て二人を抱きしめた。

「メロ…マット…無事だったのか…本当に良かった…!」

ロジャーの優しい声に包み込まれる。意外な言葉にメロは目を丸くして驚いたが、ロジャーの肩に手をかけて、顔をそこにうずめた。
マットは涙をボロボロと落としながらロジャーに抱きついている。

「ただいま」

それが自然に出た言葉だった。
ロジャーはすぐに笑顔で「おかえりなさいメロ、マット」と返してくれた。

身寄りの無い自分達を受け入れてくれた存在、ロジャー。
我が子のように接してくれたのは覚えてる、けど、今まで忘れないでいてくれたことが、本当に嬉しかった。

事情を軽く話し、資金面の援助を求めると、ロジャーは快く了承してくれた。

「しかし、二人はこれから一体どうするんだい?」
「まだ何も考えていないけど、マットと二人ならどうにかなるよ」
「…!メロ…!」

マットは、はちきれそうな笑顔でメロの方を向いて大きくうなずいた。

「俺、メロの為だったら何でもできる!」
「…マット…その笑顔…気持ち悪い…つーか顔近!近い!離れろ!」
「まぁ…二人がそう言うなら、きっと大丈夫だろう。ただ早いところ仕事を探して、きちんとした生活を送るよう心がけなさい。」

「ああ分かってる、もうマフィアとは関わらない」
「それは当然だよメロ…」
「そうだ、リンダの連絡先を教えておこう。彼女が以前、メロに協力して欲しい事があると尋ねて来た事があったんだが」

「…リンダが?なんだろう」
「そういえばメロ、リンダと付き合ってたって噂は本当なのか?」

「俺はリンダを女と見た記憶が無い」
「それ何気に酷くない…?」
「メロ、これがリンダの連絡先だ。もしかしたら芸術関係の事かもしれないね。」

「…興味がわいたら連絡してみる」

メロはリンダの連絡先を受け取ると、ポケットに入れた。
マットはそれをジーッと見ながら、メロと視線が合いそうになるとすぐに目をそらした。

「もし良かったら夕食も食べて行くと良い、今日はシチューだからね」
「分かった、夕食までには戻る。俺はチョコを買いに行ってくる」

メロは上着をはおって、部屋を後にした。それを追いかけるようにマットもついて行った。

孤児院を足早に出て、しばらく何も無い道を歩く。冷たい風が吹く度に頬が凍りそうになる。
突然にメロが立ち止まり、後ろからついてくるマットの方をふりかえった。

「…メロ?」
「忘れてた。マット、歯食いしばれ」

突然そう言われポカンとしているマットの頬ををメロは右手で思いっきり殴り飛ばした。殴られた拍子でよろめき地面に尻餅をつくように倒れこむ。

「は!?なになに!?」

殴られた頬を手で押さえながら涙目でメロを見つめるマットを、見下ろすようにしながらメロはニィッと笑った。

「これでチャラにしてやる、ありがたく思え」
「え!?へ!?なにが!?」

すっとんきょうな声を発しているマットに、思わずメロは呆れて、その場に倒れているマットの顔を、しゃがんで覗き込んだ。

「昨晩の事だ、もう忘れたのか、お前」
「あ…あぁ… … !? … え、許してくれるの?」

「チャラにしてやると言った」
「…!」

マットは、目の前にいるメロに勢いよく抱きついて首筋から顔中にキスをしまくった。メロはマットの顔を手で抑えながら必死にそれから逃れた。

「おいバカ!やめろ!何しやがる!」
「1発殴られるだけで許されるなんて思わなかった!メロ大好き!好き!」

「…お、お前って奴は…少しは…学べ!勘違いするな!」

メロは赤面しながらマットを振り払って、小走りで道を駆け抜けた、それを笑いながら追いかけてくるマットに呆れながら。

息をきらせながら小さな店に入り、板チョコレートを3枚買う。
孤児院への帰り道、寒い中、パキッと音をたててチョコを食べる。
そんなメロの後ろから顔に殴られた痕が数箇所あるマットの姿があった…。

「メ、メロ…!ごめん!ちょっと調子のった!これからも一緒にいていいよね!」
「好きにしろ…バカマット!」



夕食はロジャーと孤児院の子供達と一緒。
たまにはそういうのも、良いかなと思った。

No08:空白
No09:約束

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