Dripping of memories

君の十字架

※ヤオイ要素が強くなっているので苦手な方は読むのはご遠慮ください。

No06:最後の誘惑

浅い眠りの中、ニアの体温を感じていた。
ニアに告白された後だというのもあり、やはり多少の混乱もしたままだ。

静かに寝息をたてているニアは、そんなことなどおかまいなしといった様子だ。

トクン… トクン… とお互いの心音が聞こえる。

なんて、静かな空間なのだろうか。


寝返りをうちたくても、背中にはりついているニアが邪魔でうまく体を動かせない。ベッドから落としでもしたら何を言われるか…全く世話のやける奴だ。

背中にはりついているニアを避けて、一度起き上がり、自分の髪の毛を手で軽くすいて、整えた。
ふとマットの寝ているベッドへ目をやると、姿が見当たらなかったので静かに立ち上がり、部屋を見回した。

マットのベッドの近くまで歩いてきて、周辺を見回す。というのはベッドから落ちていると思ったからだ。

しかし、いない。

一体こんな夜中に何処へ出かけたのか…まぁ子供ではないから案ずる事もないだろう。

少し気になりながら近くの窓から外をのぞくと、静かな町並みが変わらずにある。朝になったら、すぐに移動して…久々にロジャーに会うのか。

と思うと、一体どんな顔をして会えばいいのか…悩んでしまった。

Lの死を受け入れられずに胸ぐらまでつかみあげて、あげくに身勝手に飛び出してしまった…今更どのつらさげて会うというのか…。

しかも俺は一応、死んだ事になっているし、顔に火傷の傷をおっているし…メロだと気づいてくれるのだろうか…。

急に物寂しくなり、おもむろに自分のポケットに手を入れる、チョコをいつも入れているからだ。
しかしポケットの中にはチョコはなかった、口寂しいので、チョコを食べたい。
確か奥のテーブルに置いたか…そう思い暗闇を静かに移動してテーブルの上にあるはずのチョコへ手をのばした、その時…

「メロ?」

テーブルの奥から自分の名を呼ぶ声が聞こえた、マットだ。

「マットか、お前こんなとこで何してる」
「いやちょっと寝れなかったからゲームしてた」

そんなマットに呆れながら、チョコを手に取り、食べながらマットのいる方へと近寄った。

「もう夜中の2時だ、寝れなくてもベッドに横になっておいた方がいい」
「うん、まぁ分かってるんだけどね」

ピコピコとゲーム音がかすかに聞こえる。メロの方をまるで見ることはなくゲームをし続けるマットにカチンときて、肩に手を軽くおいた。

「マット、もうやめ…」

その瞬間、肩に置いた手をグッとひかれ、メロはマットの胸の中に落ちた。
マットはメロの背中を包み込むようにして強く抱きしめた。

「おい…なにする…」
「ごめん、ちょっと寂しくてさ」

声が震えていた。

「どうしたんだ、マット…」
「怖くて、ダメなんだ。明日、三人でロジャーに会いに行くんだよな?けど、その後どうなる?また、俺ひとりぼっちになるんじゃないかって…怖いんだ…」

「今までだって一人だっただろ?ガキみたいな事を言うなよ」
「違う…俺はメロが出て行ってから、メロに追いついて一緒にまたいられるように頑張ってたんだ…!でも、メロはこれから、どうするんだ?俺、どうすればいい?」

「そんなのは自分が決める事だろう…お前はどうしたいんだ?」
「メロと一緒にいたいよ、それだけでいい」

「ニアと同じような事を言うなよマット…」
「そのニアがいるから心配なんだよ!」

マットは抱きしめていた手を放し、メロの胸ぐらをつかみあげた。
そんなマットを少し睨みながらも何も言わず話を聞いた。

「ニアは、すごいよ…Lの仕事をこれからバンバンこなしていくの決定してるし…メロは、そんなニアの…ニアと…一緒に仕事することになるだろうし…流れ的に…ニアはメロを求めてるし…メロはニアと並んでるし…俺はいつも、いつもそれ見てるだけだった…置いてかれるの分かってるから、怖いんだよ…」

マットは、泣きそうな声…というより既に泣きながら話している、ゴーグルの中がくもっていてどんな目をしているのか見えない。メロは自分に掴みかかっているマットの手をほどいて、静かに言った。

「お前は俺の親友だ、おいてったりしない、だから安心しろ。」

メロはマットのゴーグルを外して、涙を軽くぬぐってやると優しく微笑んだ。

「…メロ…」

メロの優しい言葉が何故こんなに辛いのか分からない。余計に涙が溢れる、心がこんなに痛いのは、一体何故…砕け散りそうな心を、どうすればいいのか分からない、でも…さっき気づいた事がある。

「ッ!?」

マットはメロを再び強く抱きしめ、そのままゆっくりと床にふせた。

「おい…マット、痛い…」
「ごめん、少しだけ抱きしめさせて、メロの事、抱きしめてると、心が痛くないんだ…」

絞め殺されるんじゃないかと思うくらい強く抱きしめられる。
心臓の音が体に響く、ドクドクとお互いの体を同じ音が流れているようだ。
腕の力は弱まる事がなく、より強く、求めた。
どこにもやれない、やりきれない気持ちが、その腕の力にこめられているようだった。

「…っ、痛…いい加減にしろ…苦し…」

すると少し腕の力を緩められたが、マットはメロの上に覆いかぶさり、その目を直視した。

「見たかったんだよね、俺の目…お詫びに見せるからさ」
「…今かよッ!」

マットの目を直視したメロの頭の中に様々なイメージが舞い込んでくる。
前に見た時よりも色んなものが見える、マットの幼少時代だけじゃない、メロと再会する前のマットも…そして、今のマットの心の中すらも鮮明に…

「…ちッ…」

目をカッと見開いてメロは息をあらげながらマットをはねのけた。マットはそのまま近くの壁に静かにもたれかかり、虚ろな瞳でメロをゆっくりと見た。

「…メロ…嘘ついてたんだ…」
「…?」

小さな笑い声を含めながらマットは目を細くして、メロを睨んだ。

「ニアとのこと…俺に、嘘ついてた…」
「…こっちの記憶も丸見えってか…お前には関係ないだろ…!」

その直後、マットはメロを床に叩きつけるようにして押し倒した。マットの目を見た直後というのもあり、目がまわり上手く体が動かせない。

「…関係?大有り…なんでそうやって決めつけんの?」
「ニアとは何もな…」

マットの唇で、自分の口をふさがれる、息が出来ないくらいに強く。一瞬離れて、すぐに噛み付くようにまた口付けられる。口内に舌が入り込み、思わず噛んでしまった。マットは一瞬、顔をゆがめて、ゆっくりと唇から離れた。
その口から血がにじんでいる。ボーダー柄の袖でその血を拭うと、ニヤッとしながらメロを見下した。

「俺、もう我慢しないから、ね、いいでしょ?」

そう言ってメロの着ているものを無理矢理にめくり上げ肌に触れた、それはまるで止められない気持ちをぶつけられているように荒々しく乱暴だった。

「…バカ…やめ!」

力ずくで捻じ伏せられ、体中をなでまわされる。敏感な場所すらも、ためらいなく…思わず体がビクッと動き、その度に力が抜ける。まるで止まる事の無いマットの行為に、頭の中が真っ白になっていく。もうどうすればいいのかなど分からない。

もう嫌だ、でもニアの時とは違い全力で拒否が出来ない、マットに嘘をついて傷つけたのを悔いているせいなのか…ただただ身を任せる事しかできず、されるがままだった…所々で耐え切れずに喘いだ。


…ああ、マットの目が冷たい…何故こんなこと…。

メロは、薄れいく意識の中、目から涙をこぼした。上にかぶさったまま行為を続けているマットと目が合うことはなく、涙が出ている事に気づかれる事がなかった、いや気づいて欲しくも無い。
何故、涙があふれてくるのか分からない。

そんなメロをよそに、今の状態に飽きたのかマットはメロの体を持ち上げて自分の上に乗せた…が、その時。
その涙がマットの体にポタリと落ち、ずっと好き勝手に行為を繰り返していたマットの動きをピタリと止めた。

「…め…ろ…?」

目を丸くしながら、マットは、まるで我に返ったかのような声で、その名を呼んだ。
しかし、その声には答えられなかった、目は虚ろのまま…まるで人形のように体にも力が入っていない。
ただ、確かにその目から涙が溢れ出していた。

…初めて見たメロの涙だった。泣き声もあげずに、静かに涙だけを流している。

「あ…メ…ロ…メロごめん…、メロ…違う・・・俺…こんなこと…こんな…」

自分のした行為が自分で信じられないといった様子でマットは、今にも壊れそうなメロをそっと抱きしめて、泣き出した。

乱れた金髪の髪を撫でるようにして手でとかし、不器用に脱がした服をそっと着せ、近くのソファーに横にさせ、小さな毛布をかけた。
それでも何も反応せず、目をうっすらと開いたまま、小さく呼吸をして涙をながしている。そんなメロを見て、マットは後悔をせずにはいられなかった。
止まらない涙を自分の服の袖で不器用にぬぐいながら許しを請う…。

「メロ…メロ泣かないで…お願いだから…許して…俺そんなつもりじゃ…」

その後もずっとメロの側にしゃがみこみ「ごめんごめん…」とつぶやくように謝り続けた。途中でメロは目を静かに閉じて、眠りについた様子だった。

その寝顔を見ながら、心が締め付けられる…。
こうすれば、楽になると思ってたのに、違う…余計に辛くなっただけだった。
抱きしめれば…触れれば…そしたら、この心の痛みがなくなると信じていたのに…メロの涙を見た瞬間に、まるで心を引き裂かれる思いをすることになるなんて思いもしなかった…。

違う。
メロを抱きしめた瞬間、とても心が安らいだのは確かだった。
このどうしようもない心の痛みを緩和できた、だから、もっと欲しくなって…。

自分で自分に嘘をついてきたのかもしれない。
同性を好きになったなんて、そんなの言えるわけもない。だから、ニアがそれをほのめかせたとき、いっそニアが暴露してくれたら、実は俺もなんだ~なんて便乗してしまおうとか、そんな、ずるい事を考えていた。

でもメロは違うと、言ったから…自分で言う勇気はなかったから、我慢して生きて行こうと思ったんだ。

だけどメロの記憶を見た時に、実際はニアに迫られていて、それでもニアのことを嫌いにはなっていないメロが見えて…嘘をつかれたという怒りに似た気持ちと、だったら自分の気持ちも伝えてしまいたいという気持ちが交差して、結果的に…メロを傷つけてしまった…。

メロは…傷ついたりしても言わないから…隠すから…そのメロが、涙を流していたんだ…我慢できないくらいショックだったんだと感じた。
ニアは、キスだけして我慢したのに、俺は…。

「ごめ…ん…」

もう、どうしたらいいのか分からない。メロが起きた時に、記憶が消えるわけない…口きいてもらえなかったら、どうしよう…。
それよりも、嫌いになられたら、避けられたら…そしたら…それこそショックで生きていけない…。

「許してメロ…本当にごめん…もうこんなことしないから…しないから…」

返事など返ってくるわけもなく、メロが静かに呼吸しているのだけ聞こえる。
ずっとずっと、謝った…もうメロに触れる事すら、許されない気がして、手を握りたくても、握れなかった、触れたくて仕方が無いのに…辛い…。

気がついたら部屋の中が朝日に照らされ少し明るくなってきていた。
メロはいつ目覚めるんだろうか…目が覚めたとき、俺に何て言うんだろうか。
側にいないほうがいいんだろうか、どうすれば…いろんな事を考えすぎて、もう何が何だか分からなくなっていた。

「マット?」

その声にビクッと体が跳ね上がる、ニアだ…。
振り返らずに、返事をした。

「あ、おはよー…」
「メロはそこで寝てたんですか。私と一緒に寝るのがそんなに嫌だったんでしょうか?」

そんな事を寝ぼけながら言っているニアが何だか羨ましい…

「さ、さぁ…」
「朝食は7時30分からですよマット、メロにも伝えておいてください」

「あ、あぁうん言っておく!」
「では私は先に行きます。もう7時すぎですからメロの事をちゃんと起こしてあげてくださいね」

マットが時計を見ると、ビックリした。もう7時18分だ…メロの事、起こさないと…でも、どう起こすんだ…直接ゆすって?…いつもなら軽くたたいて起こせていたのに、あんな事をした後で、許されてもいないのに、起こせるわけもない…。

「う …。」

マットは頭を抱えて悩んだ…この状況でメロが俺を見たいわけもない…起こされるのもすごく嫌だと思う…これ以上、嫌われるようなことしたくない…。

「そ、そうだ携帯だ…携帯のアラーム…!」

すぐにメロとおそろいの自分の携帯を取り出し、アラームの設定をした。それをそっとメロの耳元において、テーブルにおいてあったタバコを手に取り静かにそこから離れた。

「メロ…ごめん…今までありがと…俺…メロのこと大好きだから消えるね…」

小さくそうつぶやいて、逃げるように部屋から出て、ロビーを小走り、外に出て、路地に入って行く。タバコを1本とり、ハッとする。

「ライター忘れた…俺って超バカ…」

うなだれながら火のついてないタバコをくわえて路地を彷徨う。ライター落ちてないかなーなんて思いながら。




ピピピ…ピピピ…ピピピ…

耳に響く携帯のアラーム音を聞いて、メロは目を薄っすらと開けた。目の前には誰もいない。体をゆっくりと起こしてゆっくりと辺りを見回すが誰も居ない。

アラームの鳴っている携帯のスイッチを切ると、そこには「7時30分から朝食です。 Byニア」と表示されていた。

「…ニアだと?…この携帯はマットのだろうが…」

夢うつつにマットが謝り続けていたのは途中まで記憶していたけれど、一体何処に行ったのか…先に朝食を食べに行ったのか?人にさんざんな事しておきながら…なんて野郎だ。そう思いながら部屋を移動し、朝食をとる部屋へと移動した。

その部屋に入ると、ニアとジェバンニ達がいた。

「おはようございますメロ、全く勝手にソファーで寝るなんて酷いですよ」
「…あ?ああ…悪かったな…マットは?」

「一緒じゃなかったんですか?」
「ああ、起きたらいなかった」

「マットにメロを起こしてくれと頼んでおいたのですが?」
「…あいつ何処いきやがったんだ…」

マットの携帯を握り、苛立ちを隠しきれなかった。あいつのことだ、どうせどっかふらついてるんだろう…めんどくさいが探しに行くか…。

「ニア、俺は朝食はいらない。マットを探してくる」
「そうですか、分かりました。」

その後、メロはホテルから出て周辺を歩き始めた。何となく行く場所が分かる…どうせ路地にでも入ってタバコふかしてるんだろう…そう思いながら早歩きで路地をまわる。

その頃、マットは路地のゴミ箱の上にいた猫と一緒にいた。

「猫ちゃん…聞いてくれよ俺の悲恋を…」
「ニャーン」

「あのな、俺が好きな人って、同性なの、分かる?お前はオスか?ああオスか!つまりオスがオスを好きになったらさー…こう色々大変なわけで…」
「ニャーン」

「でね、こー…ついついワーってなって、しちゃったんだけどね?」
「ニャーン」

「たぶん嫌われちゃってさ…もう俺、生きてる意味なくなっちゃったっていうか…」
「ニャーン」

「もーどうすればいいんだよおお猫にゃーん!」
「ニ”ャ~~~~」
「おい、猫まで犯す気か?」

その声にビクッと飛び上がると、おそるおそる声のする方を向いた。
そこには不機嫌そうに仁王立ちしているメロがいた。

「え…メローッ!?」

猫を抱きしめながら大声でそう叫ぶと、ビックリした猫に手を噛み付かれ、思わずその手を離し、猫はすぐにその場を離れて行った。

「こんなとこで…お前は何してるんだ…」
「…メ…メロ…え、えと…」

「帰るぞ」
「え!?」

「お前のせいで朝食抜きだ」
「え、ア、アラームで起きれなかった…?」

「何がByニアだ…ふざけてるのか」
「いや…俺…嫌われてると思ったから…」

メロはマットの携帯を投げつけ、マットはそれをあわててキャッチした。

「後でゆっくり話があるから覚悟しておけマット…」
「…はい…」

禍々しいオーラを放つメロに思わず足がすくんだが、メロが探しに来てくれたことが嬉しすぎて、もうなにがなんでも良い気がしていた。

許してくれるの?メロ…。

No07:理解者
No08:空白
No09:約束

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