Dripping of memories

君の十字架

※ヤオイ要素が強くなっているので苦手な方は読むのはご遠慮ください。

No05:罪

二人っきりになった部屋には、静けさだけが残り、しばらくしてメロは近くのソファーに静かに座ると、うつむいたまま静かに両手て顔を覆った。ニアはメロのソファーの目の前のイスに座り、片足を抱きかかえるように座ると髪の毛をクルクルといじりはじめた。

「ニア…お前、さっき言っていたことは本気か?」

その言葉にピクッと反応すると、静かにうなずいた。
メロは首を左右に小さくふると、顔をあげた。

「それは…どういう意味での好きなのか理解しているのか」
「分かりません」

「ニア、俺は…確かにお前を避けてきた…悪かった。そのせいでお前がそんなに思いつめているとは思わなかったんだ。分かるだろう?俺とお前はライバル同士だったんだ。お前はいつも俺の上を行く…キラも結局お前が」
「いいえ、キラを追い込めたのはメロのおかげなんです。」

その言葉に、メロは目を細めた。

「あぁ…おかげで俺は死んだ」
「でも、メロは生きています」

しばらく沈黙が続くと、メロは足を組みなおし、ふんぞりかえって笑いだした。

「それはマットのおかげだ」

事の経緯をニアに全て話すと、とても信じられないという顔をしながらニアは縮こまった。

「…私だってメロの側にいれば、マットと同じ事くらいできました。」
「お前が俺を運べるのか?ハハハ、無理だな」

笑っているメロの目の前までニアは歩いてくると、そのままメロの両肩に手をかけ、胸に顔を押し付けた。
メロは動じる事も無く、フンッとそっぽを向いた。

「メロ…生きていて本当に良かった…」
「ああそうかよ」

ニアの頭に片手を置いて、グッと引き離すように頭をおした。しかしニアの頭はびくともしない。
両肩をもって、グッと力をいれ引き剥がそうとするが、やはり無理だった。

「おい、いつまでそうしてるつもりだ…」
「メロに…プレゼントがあります」

そう言われ、何だ?とメロは体の力を抜くと…急にニアが顔をあげた。

「目を閉じてくださいメロ。」
「…そんな子供染みた真似をさせるな。渡すものがあるなら、さっさと渡せよ」

「目を閉じてくれなきゃ絶対に嫌です」
「ならいらない、さっさと…どけ」

メロはニアにデコピンをしてハハハと笑った。突如、ニアはメロの両目をその手で塞ぎ、のしかかるように体重を上に移動させると、ソファーが大きな音を立てて倒れ二人とも床に転がった。メロは地面に打ち付けられた拍子で一瞬顔を歪めた、ニアはすぐに起き上がるとメロの両手に手錠をかけ、仰向けにしてのしかかった。

「…な、何す…!」

メロはガチャガチャと外れる事の無い両腕の手錠から逃れようと必死だ。
ニアはメロの上にのったまま、いつもよりも低い声で静かに言った。

「例え許されなくても、私はもう自分の気持ちを抑える事ができないんですメロ…」
「何を言ってる…ニア!…さっき言いそびれたが、お前は大きな勘違いしている…」

「何を勘違いしていると?」
「いいかニア…お前の言う、その好きという気持ちは恋愛的なものではないはずだ。たまたま俺がお前を極端に拒絶していたから、それでうまく会話もできなかったせいで…友情を捉え違えているだけだ。だから先に謝ったんだぞ、この俺が謝ったんだぞ!!! 今後はもう少し優しくしてやるし…ちゃんと話も聞いてやる、だから…」

「いえ…間違ってるのはメロのほうです…」
「…何だと?」

「確かに…最初は私もライバルや友情などの心が多少発展しただけかと思っていました。しかし違います。」
「違わなくない!ニア、お前…モニターでいろんなの見すぎで変な番組まで見てたんじゃないだろうな!?」

「そんなのは全く関係ありません。私はメロが欲しいと言ってるんです」
「お前にやるものはない、さっさとこの手錠を外せ!いいか…俺がその気になればニア、お前なんかな…」

「身体的な強さがメロのが上だとしても…力だけが頼りのメロとは違い、私は合気道を習得していますから」
「な…合気道!?」

ニアは、フフフ…と不敵な笑いを含みながら説明しだした。

「“合理的な”体の運用によって“相手の力と争わず”に相手の攻撃を無力化し、年齢や性別・体格体力に関係なく「小よく大を制す」ことが可能になる…それが合気道…Lはカポエラを習得したそうですが、私はあえて合気道を習得したというわけです、といっても実践はしておりませんが…メロを抑える事ができれば、それだけで満足ですので問題ありません」
「…あ…ありえない…!!! くそっ!!!」

「諦めて下さいメロ…二人きりになった時点で…私はこうすることを決めていました」
「か、勝手に決めるな!!! 俺は…お前の玩具じゃない!!!」

メロは自分を下敷きにして上から見下すニアに恐怖を覚え、もがきながら何とかマットを呼ぼうとすると、それを予想していたかのようにニアはメロの口を布で縛り付けた。もうここまでされてしまうと、考えなくとも自分がニアにどうされてしまうのかが想像できてしまう…。
ニアの手がシャツの中にそっと入ってくる…自分の生肌を他人に触られるのに慣れていないせいもあって、それだけで鳥肌が立つ。自由のきく両足を可能な限り動かし、ニアを跳ね除けようとする。

「…に…あ・・・!!!や…め…!!!」

布を噛みながら必死に抵抗するが、ニアは冷めた目で見つめているだけだった。
まさか…まさか本当にニアは俺をどうにかしてしまうのか?そんな思いが混乱しながら脳裏を駆け巡る。
そんなことを考えるメロの頬に、ニアはそっと唇を押しつけ、そのまま金髪の髪の中へ顔をうずめた。
耳元でそっと、ささやくように小さな振るえた声でニアは話し出した。

「…ごめんなさいメロ…これは…罪ですよね…」

顔をうずめたまま、両手をメロの背中にそっとまわし、ぎゅっと強く抱きついた。
ニアの心臓の音がよく聞こえる…早い鼓動、熱い吐息…。

「…メロが…欲しい…でも… … …辛い…」

苦しそうな声でそう言うと、ゆっくり顔をあげ…瞳から大粒の涙をボロボロとながした。今まで自分を抱きしめていた手が静かに離れてゆく。
メロは動かず、そのままニアを見つめていた。

「…道理から外れてしまいそうになりました。」

ニアはそう言うと、メロの口に縛り付けた布を外し、そっとその唇に手で触れた。メロは何も言わずに自分の唇に触れられた手を意識しながら、ニアの目を見た。その瞳から溢れている涙は何故とまらないのか、声を出さずに何故泣けるのか、少し不思議に思いながら。

「メロ…お願いが…」
「… …なんだよ…」

「最後に…キス…していいですか…」
「…。」

しばらく沈黙が続き、メロは静かに目を閉じた。

「それで満足するなら、そうしろ。そしたら手錠も外せよ…あと泣くのもやめろ…」
「…はい」

ニアは自分のシャツの袖で涙を拭うと、メロの唇に、そっと自分の唇を重ねた。
少し、唇をあまがみして、もう一度くちづける。小さな舌で舐めるように唇を吸いあげ、名残惜しみながら…そっと離れた。

メロにつけた手錠を外すと、ニアは薄ら笑みを浮かべて、立ち上がった。

「…忘れてください。私も…もう、貴方の事を忘れられるように…努力しますから」
「お前みたいなムカつく野郎を忘れるのは無理だが、別に誰にも言わないから安心しろ…」

メロはゆっくり立ち上がって、倒れたソファーをなおすとニアの横を通り過ぎようとした。すれ違いざまにニアに手を握られ、思わず立ち止まる。

「本音を教えてください」
「何のだ」

「私は、メロにとって…どんな存在ですか?」
「今も昔もずっと俺のライバルだ。それ以上でもそれ以下でもない。」

「嫌いですか?」
「…別に…嫌いじゃない」

その言葉を聞いてニアは少し笑みを浮かべながら、ゆっくりと玩具箱のある方へ歩いて行った。
玩具で遊び始めたニアを横目で見ながら部屋の外へと出て行った。

ドアを開けると、すぐ横で転寝しているマットがいた。こいつは何処でも寝れるんだな…。

「マット待たせたな」

その声にビクッと反応して、飛び上がるように起きると頭をボリボリかいて、ニコッと笑った。

「あ、メロもう話ついたの?ニアってマジでホモとかじゃないよね?俺、ニアがメロの事おそってる夢とか見ちゃって心配なんだけど」
「変な妄想するな。俺が今まであいつの事をないがしろにしていたから…好きっていう気持ちを捉え違えてただけだ。今後はもう少しニアに優しくしてやることにした…」

「なーんだよかった~。まぁニアの気持ちも分からんでもないしなっ!俺もメロの事、大好きだし!」

マットは、そう言いながらメロの肩に勢い良く片腕をかけてハハハッと笑った。

「今日はもう寝ようマット。部屋でニアも待ってる」
「ああそうだな!たまには三人で仲良く同じ部屋で寝るってのも良いよなっ!修学旅行みたいでさ!」

鼻歌を歌いながらマットは部屋に入っていった。
メロも部屋に入り、玩具で遊んでいるニアの頭にポンッと手をのせた。

「もう寝るぞ、ニア」
「…はい」

各自、ベッドに横になり、電気を消した。
マットはすぐに寝息を立て始めた。

メロは考え事をしながら天井を見つめていた。正直、ニアの自分を想う気持ちが嫌ではなかった。
でも神の教えに逆らうような真似はできない、けして。それは罪だ…。

そこに、枕をかかえたニアがひょこっと顔を出した。
思わず目が丸くなる。

「…な!?ニア!?」
「一緒に寝ていいですか?…別に変な事とかしませんから」

「一人で寝れないのか、お前は…」
「いつもレスターが側に寝ていてくれましたから」

「…お前…勝手にしろ…いいか、俺の事、ベッドから落とすんじゃないぞ!」
「寝相悪くありませんから安心してください。逆に私が落とされそうで嫌です」

ニアはそう言うとベッドの中に勝手に入ると、メロの背中に張り付くようにして眠り始めた。
メロもそのまま、静かに目を閉じて眠った。

この世には分からないことがいっぱいある。
どこまでが罪で、どこまでが正しいのか、俺には分からない。

No06:最後の誘惑
No07:理解者
No08:空白
No09:約束

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