君の十字架
※No04からヤオイ要素が強くなっていきますので苦手な方は読むのはご遠慮ください。
No04:理解と興味
不思議だ。
何故、こんなにも良く眠れたのか、分からない。
ここ数年まともに睡眠なんてとっていなかった、誰も信用できなかった、信じる気もなかった、何も・・・全て。
ただ一番になることだけを考えていた。
何者よりも勝りたかった、認められたかった。
自分が必要とされないことが・・・怖かっただけなのかもしれない。
隣でマットが静かに寝息をたてている、その奥には寝ているのか起きているのか分からないニアもいる。
家族や愛情なんて幻想だ…が、悔しいくらいに、この空間に安心している自分がいる。
我ながら馬鹿っぽい。…こんな無駄なものは忘れてしまいたい。
失った時、悲しいに決まってる…いつまでもあるもんじゃない、必ず失う時が来る。
だったら、最初から無い方が良い。
ニアは良いよな、いつも冷静でいられる。
俺もできるころなら、そういう人格に産まれてきたかった。
マットも、人に好かれる雰囲気もってる…こいつとは不思議と気があって、よくつるんでいた。でもお互いの事はよく知らない。
きっと知る必要も無いんだろうが…もし、これから自由な時間が与えられるのなら、俺は知りたい。
自分で調べるべきか?まわりくどい。
一度聞いてみるか…?拒否されないだろうか、教えてくれるだろうか。
…そんな事を考えながら、おもむろにポケットからチョコをとりだしてペロペロとなめだした。
悩んでいる俺をよそに横でマットは寝返りをうってこちら側に顔を向けた。むにゃむにゃと気持ちよさそうに寝ている…いくらなんでも無防備すぎだ。
そんなんだから俺を超す事ができなかったんだろうが…まぁ超えられたらムカつくけどな。
何となく寝ているマットにデコピンをかます。一瞬、眉間にシワがよったが、それでも気持ちよさそうに眠っている。
おもしろくなって、ゴーグルを外してみた。マットは目を閉じたまま「う~ん…」と片手を少しあげて、虫をはらうように手を動かした。
そういえば昔、マットにゴーグルをつけている理由を聞いた…。
目を見ると・・・あの時は突然すぎて、余裕をなくしてしまった、でも今なら全てを受け止められる気もする。
恐れずに知る事ができるかもしれない。
こいつの辛い思い出、哀しみ全部、見てみたい。そしたら…少しは楽にならないか、マット?
俺の自己満足か?興味か?どっちでもいい、ゴーグルは起きるまで俺がもっていよう。
ニアはマットの目の事を知っているんだろうか?…ニアのあせった姿、見てみたいな、ハハハ。
「ん・・・ …あれ・・・」
マットが薄っすら目を開けて寝ぼけながら自分の顔を両手でペタペタと触っている、ゴーグルを探しているようだ。
しばらくすると、メロがゴーグルを手に持っている事に気付いて、軽く溜息をついて手を伸ばした。
「…メロー…返して…俺のゴーグル…」
眠そうな声のままそう言って、あくびをした。メロは、そんなマットを意地悪な目つきでニヤニヤと見つめている。
「なぁマット、お前、ニアをその目で…生で見た事あるのか?」
「…はぁ?急に何なんだよ…?」
頭をボリボリかきながら、メロのもっているゴーグルに手をかけた。グッとひっぱって取り上げようとするが、メロがそれを許さない。
「答えろよ」
「なんでだよ…意味わかんないし…」
「言え」
「はぁ~…ないよ、たぶん。」
「へぇ・・・」
「メロ、何考えてるんだ…?」
「後で試してみてくれよ」
「…はーっ?…ぜってー言うと思った…嫌だよ、面倒くさいし、ニアの目を直視するなんて精神的に無理」
マットは両手をあげて交差させ、ムリムリとジェスチャーで大げさにアピールした。
「俺ならいいのか?」
「・・・ん・・・まー…ね」
「なら見てくれよ、俺の目をな」
「は!?どうしたんだよ急に…わっ!?」
マットの身体をまたいで強引に顔を近づけ、真面目な表情でメロはマットの目を直視しようとしている。
それを手で軽くはらいながら、笑いを交えながらメロの頬をグニーッと両手でつまんでひっぱった。
「メロ、どうかしてるってアハハ」
「知りたいだけだ、お前の事を全部」
「…マジ? …いや、知られたくないよ俺は。かっこ悪いから、それくらい察してくれよ?」
「いいだろ別に、減るもんじゃないんだし」
「嫌だって言ってるじゃん、いい加減にしろよ、メロ」
「…そんなに嫌かよ」
「ああ、嫌だね!」
少し声を荒げて言うと、メロは不満そうな顔をしながらゴーグルをマットに押し付け、すぐに席を立ち通路を通って奥へと歩いて行った。ゴーグルを受け取ったマットは、それを付けてからすぐにその後を追って、メロの肩に軽く触れたが、払いのけられた。
…初めて、はらいのけられた…。
「え、と…メロ、あのさ~…」
「触るな」
「…へ?」
「…すまない…少し一人になりたいだけだ、頼む」
そういうと少しうつむきながら狭いキッチンへと入っていった。
少しの間、呆然と立ち尽くした後に自分の座ってた席に戻り、タバコを取り出して一本口にくわえ、火をつけた。
深呼吸をして、フーッと長い煙をはく。
「なんだよメロ…意味不明…」
その臭いに気付き、ニアがぱっちりと目を見開いた。
「マット、禁煙だと言ったはずですが?」
「硬い事いわないで、俺は吸いたい時に吸うの」
「臭いです消してください」
「少しだけ我慢してくれよ」
「無理です今すぐ消してください」
「…はぁ」
「マット早く消してください。」
「…うるせぇよ…!」
マットはそう言った直後にハッとして、少しうつむいた後、後ろの席に移動した。
ニアから離れた場所で、スパーッとタバコをふかしている。
あぁメロは何で俺にあんな事を聞いたんだろ、変な夢でも見たのかな…俺、何かまずかった?
だってお前が一番分かってるはずだろ、目を直視したら、どうなるかさ…。
なんでいきなり避けるんだよメロ、きっと虫の居所が悪かっただけだよな…?
胸が苦しい。
「メロは何処ですか?」
こっちの気持ちを欠片もくんでないニアの言葉が面倒くさくてたまらない。
小さく溜息をついて答える。
「キッチン行ったよ、チョコでもとりにいったんじゃないの」
「そうですか」
気まずい…なんで俺、ニアがこんな苦手なんだろう…メロ早く戻って来ないかな…。
するとニアはメロのいるであろうキッチンへと歩いていった。
パキッ
その頃メロは、キッチンでチョコをかじりながら悩んでいた。
マットは何であんなに嫌がったんだろうか、ニアのことは冗談だが、俺の目を見るのがそんなに嫌なのか?良いと言ったじゃねぇか。
今度こそ受け止められると思っていたのに、何故拒否された?タイミングが悪かったのか?
パキキッ
分からない。思わずカッとなって、マットの手をふりはらってしまったが嫌われてしまってないだろうか。
唯一、気の合う友達なだけに失うのは…いや…なぜこだわるんだ、どうでもいいじゃないか…どうせ俺は一人だ、ずっと。
身に着けているロザリオを手に取り、ギュッと握り締める。
「メロ」
突然のその声に、思わず驚いた表情で声の主を確かめた。
ニアだ。
「なんだ」
「マットと何かあったんですか?」
「別に」
「面倒なので早く仲直りしてきてください」
「ケンカなんてしてない」
「でもマットが悲観に暮れてましたよ?」
「意味が分からない」
「早くあちらへ戻ってください迷惑です」
嫌味ったらしいニアの口調のおかげで、悩みよりもニアへの苛立ちのが募る。
しばらく沈黙した後、何も言わずに自分の席へと戻った。
するとメロの席の隣でマットがタバコをふかしている姿があった。
目を細くして小さく溜息をつき、マットの頭をパコッと軽くたたいた。
「禁煙だぞ、マット。理解して吸っているのか?」
「…あ…メロ…」
馬鹿マット…何で半べそかいてるんだ…ありえない…。
情けない声で返事をした上に、今すぐ支えないと崩れてしまいそうな姿に呆れて、溜息をついた。
「何を泣いてるんだ…」
「メロ…」
「ん。」
「…俺、少し寝るよ…」
「そうか、おやすみ」
「メロ…ゴーグルとらないでくれよ?…」
「あぁ、分かった。」
マットは目を閉じて、うずくまるように眠り始めた。
まさか泣いているとは思わず、何だか悪い事をした気持ちでいっぱいになる。
そこへニアが呆れ果てた顔をして、自分の髪の毛をくるくると飽きずに触りながら、のそのそとやってきた。
「呆れるくらいに、メロの飼ってる馬鹿犬って感じですね」
「マットを馬鹿にするなニア」
「本当の事を言っただけです」
「そういうお前は、自分じゃ何もできない子供だろうが」
「ジェバンニ達がいるから別に良いんです」
「…ああそうかよ」
メロはマットの隣の席に深く座るとチョコをかじりながら天井を見つめた。
なんだかんだで、こいつの近くにいる方が落ち着くんだ。
ニアは機嫌の悪そうな顔をしながらメロの席から少し離れた席に座った。
「メロは、マットの事が好きなんですね」
「少なくとも、お前よりかは好きだな」
ハハハと笑いを交えてそう言ってニアを見ると、こちらを冷めた目で凝視しているニアと目があう。
「なんだよ…」
「私は…」
その時、ガクンと飛行機が揺れ、機長から着陸のアナウンスが入った。
ジェバンニがすぐにニアの元に来て、シートベルトを装着させた。
メロも、マットのシートベルトをしてやり、自分も装着した。
しばらくして着陸態勢に入り、そのまま着陸。
メロは、自分が寝ている間にインチョン空港を経由していたことに今気付く。
ハルの事をチラっと見ると、ハルはレスターを指差してクスッと笑って見せた。
まさか…寝ている俺達全員を運んだのか?こいつ…。
少し申し訳なさそうな目でレスターに目をやった、そのまま視線を落として、髪の毛をかきあげた。
この飛行機は無事にヒースロー空港に到着したようだ。
マットの肩をぽんぽんとたたき、起こす。何も言わずにウーンと大きくノビをして「おはよ」と笑顔でメロをみあげた。
ジェバンニはニアを抱えて飛行機から降り、メロとマットも順次、飛行機から降りていった。
空港を早々と後にして、予約していたホテルに向かう。
ここからウィンチェスターに移動するにはバスを使うのだが、フライト時間も長く疲れもあるし、一度休んだ方が良い。
ロジャーの用意しておいてくれた部屋に入る。
「はいメロ。ホテルのキー渡しておくわ」
ハルはメロにホテルのキーを渡すと、ウインクしてみせた。
そんなハルを訝しい顔で見つめながら、それを受け取った。
「あ、そうそう…その部屋、三人部屋だからね」
「だからなんだ」
「ニアとマットも同じ部屋だから、ちゃんと仲良くしてね、メロ」
「・・・。」
そういうことかよ…マットは兎も角として、何でニアまで一緒なんだ…。
不服そうな顔をしながら、何も言わずにその場を去った。
ホテルの通路でゲームをしているマットが、歩いてくるメロの元へ駆け寄ってきた。
「キーもらったんだ!って事は、俺とメロが一緒の部屋って感じか?」
「ああ、あと何故かニアも一緒らしい」
「は!?なんで!?」
「分からない、まぁ一晩だけだ。俺はこのまま風呂に入って来る。マットも部屋に入ってろよ」
「って事は部屋でタバコ吸うのもNGにされそう…はぁ…」
「今日ぐらい我慢しておけよ。タバコはお前の健康にもよくないしなハハ。」
「ちぇーっ」
マットは少しふてくされながら、メロと部屋に入ると、部屋のど真ん中でパズルをしているニアが既にいた。
メロは一度立ち止まってニアを睨んだが、そのまま上着を脱いでバスルームに入っていった。
「もう。お風呂はいるんですか?」
ニアのその言葉すらも無視してバタンッとドアを閉じる。マットは何事もなかったかのようにゲームを手にして、その辺のソファーに座りピコピコとゲームを始めた。
「マット、メロは何故、私を避けるのですか?」
「…え、さぁ?」
「…哀しい気持ちでいっぱいです」
「!?」
うつむきながら、ニアが小声でそう言いもらすと、マットは意外そうな顔をしてニアのほうを向いた。
少しだけ不憫になってしまい、ゲームを一度中断してニアの側に座った。
「メロは、お前とずっと競ってきたし…それに結局さ、Lの仇はニアがとっちゃったから心中複雑なんだよ」
「キラを追い込めたのは・・・メロのおかげです。私はメロと二人の力でLの仇をとった…Lを超えた・・・」
そのニアの言葉を聞いて「俺は?」とついつい聞きたくなったが、話がこじれそうだったのでやめておいた。
「私はメロと今後、協力していきたい…一緒にいてくれとは言いません、ただ、もう少し…」
「もう少し…?」
「もう少し一緒にいたいだけです…側に、少しいたいだけです…」
「ははーん、だから部屋も一緒にしたのか。ここどう見ても二人部屋なのに、無理矢理ベッドが一つ増やしてあるよな」
マットは事前に運び込まれていたベッドを指差してニヤッと笑った。
「ええそうですよ」
「あっさり認めるのかよ…」
「マットはメロの事、どう思ってるんですか?」
「普通に友達だよ。メロの事すげー大好きだから勝手に親友とか思ってるけど。」
はっきりとそう答えたマットに、ニアは玩具を投げ付けた。
「っいて!何すんだよニア!」
「私だってメロの事が好きです。いえ、マット…貴方なんかよりもメロの事が好きです。」
「なにそれ…もしかしてニアって、恋愛的にメロの事が好きなのか…?」
「分かりません。でもマット、貴方がメロの側にいるのが気に食わない」
だんだんとニアの目に恐ろしいオーラを帯び始めている。これが眼力というものなのか分からないが、マットはその目から逃げるように後ずさりした。目を見開いて、マットを瞬きもせず見つめている。その目が恐ろしくて、声も出なかった。
「この…万年三番の馬鹿犬め…お前さえいなければ…」
そうつぶやいてマットの胸倉を掴んだ。が、後ろからシャツをひっぱられ、すぐにマットから引き離された。
風呂から出てきて、タオルで髪の毛を拭きながら…長めで薄いTシャツにハーフパンツ…とてもラフな格好をしている。
「何してる、ニア…」
「メ、メロ!」
マットが震えた声でメロの名を呼ぶ、ニアはメロに掴まれたまま、ぶらさがるようにしている。
メロは軽く溜息をつくと、ニアを地面に降ろした。
「メロ…」
「マットに謝れニア」
しばらく沈黙が続いて、ニアはふてくされながら頭を下げた。
「やっぱり、お前はジェバンニたちと同じ部屋で寝るんだ、分かったな」
「嫌です」
ニアはメロのTシャツをグッと掴み顔をふせた。まるでだだをこねる子供。
呆れてニアの頭をグイグイと離そうと押すがびくともしない。絶対に離さないという執念が伝わってくる…。
「メロの側がいいです…ずっと我慢していました…メロ」
「な…気持ちが悪いぞニア…離れろ!」
勢いをつけてメロはニアを蹴り飛ばすと、少し息を荒げながらマットの側に寄った。
ニアはゴロゴロ転がって、玩具箱につっこんだ。
「な…なんなんだいきなり…おいマット!…お前ニアから何か聞いたか!?」
「いや・・・なんかニアはメロの事が好きらしいっていう事くらいしか…」
「は!?」
「そんで俺に嫉妬してー…みたいな?感じ?…」
メロは玩具に埋もれているニアの方をバッと向き、小刻みに震えながら指をさした。
「ニアァアアアアアアア!!!!お、お前は何処まで俺を馬鹿にするつもりだ!!!!」
その声に反応して、玩具の中からガラガラとニアがひょっこり出てきた。
「馬鹿になんてしていません。メロが好きなだけです」
「…意味が…分からない…そんなに易々と妙な言葉を口にするな!」
「易々となんかじゃありません」
顔は無表情でいつもと変わらないニアだけれど、よく見ると手が小刻みに揺れている。
「私はマットのように上手く気持ちが伝えられません、マットはメロの事を大好きだと言いました。それを聞いて核心したんです。私はやはりメロが好きなんだと。ずっと、本当は一緒にいたい。触れたい、誰にも触れられたくない。貴方にこれを伝えることが、どれだけ勇気のいることか、分かりますか?拒絶されることが分かっていて、それでも伝えてしまった…。拒絶されたくないから私はずっと隠して生きていくつもりでした。でも告白してしまったものは、もう仕方がありません、だからもう偽りません。私はメロ、貴方が好きです。」
あまりに堂々と告白している姿に、マットは唖然として持っていたゲームを床に落とした。
あいた口がふさがらないというのは、まさにこのことを言うのだろうか…。
おそるおそるメロの顔を見ると、怒ってるのか照れているのか定かではないけれど…顔を真っ赤にして小刻みに震えている。
ニアはメロの正面に立って、メロ見つめている。それは何よりも真っ直ぐで、綺麗な瞳をしていた。
しばらく沈黙が続くと、メロはガクンと頭を落として、ゆっくりを顔をあげた。
そしてマットの肩を軽くたたいた。
「悪い…少し外してくれ…二人きりで…話をしたい…」
意外な言葉にマットは言葉を失った。いやメロは優しいから…きっとニアの気持ちを汲んでやったんだろうな…うんうん…そう自分に言い聞かせて「分かった」と一言残し、床に落としたゲーム機を拾って部屋を出た。出たのは良いけど、何処にも行く場所ないし…。
仕方がないので部屋を出たドアの前で待つ事にした。
ふと見上げると、部屋の目の前に小さなマリア像が飾ってあった。
「こんなとこにマリア様がいるなんてね」
マットはタバコを手にとってライターで火をつけると、口にくわえ煙をふかした。
「神様は許してくれるのかな、こういう愛を。あの調子だとニアは、大真面目っぽいし…」
誰もいない廊下で、独り言を続ける。何だか胸が痛むんだ、別にどうでもいいのに。なんかもやもやして。
もしかしてニアがメロに妙な事してないだろうかとか、いやいやありえない、ありえないって…。
部屋の中を盗聴してやりたくて仕方がなかった。
マリアは優しく微笑む、まるで全てを許すかのように。