Dripping of memories

君の十字架

No03:壊れた天秤

言い争っている二人を横目に、マットは自分の席へと戻り、小さく溜息をついてゲームを機を手に取り遊び始めた。





昔からメロとニアは、この調子だ。犬猿の仲というよりも、俺には言葉には出来ない強い絆で結ばれている何かすら感じる。そんな二人を傍観者として見ている立場に近い。

Lの後継者として、二人は常に同じ天秤にかけられていた。
それは、まさにLを一本の棒の真中として、ゆらゆらと水平に近い状態のまま、どちらにも偏らず、ゆらゆらと定まらないままでいた。

そのLが突然いなくなってしまって、二人の乗っていた天秤は壊れた。メロは院から消え、ニアも後を追うように消えた。残された俺達も、世界中に散り散りになった。

もう、会う事は無いと思っていた。

でも今、自分の目の前に二人がいる。

もしかしたら、メロはニアと再会するのが本当に嫌だったのかもしれないけれど、俺はまた二人に会えたのが素直に嬉しい。メロから突然連絡が来た時も、そりゃ嬉しくて仕方なかったし。

ニアがメロを免罪してくれたのも、本当にホッとしている。この後どうすればいいのかなんて、考えなくても、きっとどうにかなる。

「おいマット、ゲームしてないでニアを何とかしろ!」

イライラした口調でメロは俺にそう言った。俺は小さく笑って、はいはい…と仲介に入る。

「いいえメロ、マットは関係ありません」
「ニアもメロも…まだ何時間も飛行機は飛ぶわけだから少し寝れば?」
「…」

しばらく沈黙が続くと、メロは自分の席にドカッと座り、リクライニングを一気に後ろに倒して腕と足を組みながら目を瞑った。

「俺は寝る!話しかけたら殺す…」

そう言い残して、そっぽを向いた。
ニアは不服そうな顔をしながら、メロの席の近くに座り、玩具を抱きしめながら、うずくまるようにして目を閉じた。

「ったく…二人ともしょうもないな…」

何もかけずに寝始めた二人を気遣って、毛布を持ってきてやる。
ニアは受け取ることすら面倒くさそうにしているので、そっと肩から毛布をかけておいた。
メロは、俺から毛布を受け取ると、目を閉じながら「サンキュ」と小さく言った。

「よぉっし、俺も久々に寝るかなーっ!」

ノビをしながら、自分の分の毛布をもってきて、メロとニアの間の席に座った。
ゴーグルをつけたまま目を閉じて、少し昔を思い出しながら、久々にゆっくりと…。





「なぁ、マットは何でゴーグルつけっぱなしなんだ?」

メロと出会いたての頃に、よくそう聞かれた。
最初は答えるのが嫌でいつも話をはぐらかせていたけど、なんかメロと遊ぶのが楽しくてよくつるむようになった。
そんなある日、庭で遊んでた時に、あのこと教えたんだっけな…。


サッカーボールを蹴りあいながら、二人で遊んでいた日のことだ。

「マット、そのゴーグル邪魔じゃないのか?」
「ん、別に?これないと直に人の目みえちゃうでしょ。直に人の目を見ると、気持ちが悪くなるんだよ」

「なんでだ?」
「昔からそうなんだよ。んー、相手の気持ちが入ってくる感じって言えば分かる?」

「お前、人の心が読めるのか?」
「いや…ちょっと違うかな。感情移入ってあるでしょ、それの過剰版っていうか似てる感じかな?正直俺にも分からないんだけどね」

「ふぅん…」

メロはあまり納得いかない様子で、サッカーボールを蹴り返した。

「信じてないだろメロ」
「あぁ、全然」

メロは笑いながら答えると、その場で芝生に寝そべった。
その隣まで歩いてきてメロの近くに座ると、ゴーグルに手をかけグッと力を入れて外した。

初めてみる俺の素顔に、メロは興味津々といった感じですぐに顔を覗き込もうとしている。

「先に言っとくけど、気持ち悪くなるのは俺だけじゃないからな」
「へぇー?楽しみだな」

面白そうにしているメロに少し腹が立って、仰向けに寝そべっているメロの上に覆いかぶさるようにして、顔を近づけた。

二人の目が重なり合ってしばらくすると、メロは震えるような声にならない声を発しながら、俺の胸倉を掴み、耐え切れない様子で顔をそこに伏せた。

「…ッ」
「気持ち悪いだろ?…俺もだし…意味分かった?」

そう言ってゴーグルをまたつけて、ニコッと笑って見せた。

「…なんか…僕の頭の中に、お前が…入って来た感じだった… …」
「あぁー、そうかも。メロは相変わらずニアの事ばかり考えてるよなー」

「…!?…お前…何を見た…」
「怒るなよ…メロの中、すごかったよ。勉強の事ばっかでさ…今夜うなされそう」

メロは茶化すなとばかりに俺の肩を軽くたたいて、少し黙った後に口を開いた。

「…マット、それは産まれつきなのか?」
「ん、そうみたい」

笑っている俺を、どこか哀しい目で見ているメロが、どこか優しく思えた。
寝そべっているメロの隣に、ゴロンと俺も転がる、しばらく沈黙が続いて、冷たい風が頬に沁みた。

「…辛かったな」
「へっ?」

意外な言葉に思わず声が裏返る。

「恐らく俺の見たアレはお前の過去だろう」
「…え」

まさか、冷静にそれを見たなんて正直信じられなかったけど、メロならありえそうだ…。
俺は"あちゃー"と頭をくしゃくしゃとかきあげると、小さく笑った。

「…今日のメロなんか優しいなっ!」
「バーカ、そろそろ部屋もどるか」

「あ、まってくれよメロ!」





メロは、その後も一緒に遊んでくれた。
今まで俺の目を直接見た人間は、二度と俺に話しかけることすらなかったのに。

だから、メロは本当にすごい奴だなって今も思うわけだ。
不器用でどうしようもない感じだけど、ほんと優しい奴。

そのメロが一番気にかけてるニアが、当時も今も…少し羨ましい。
ニアも、ほとんどの事には無関心の癖して、メロにだけはあんなに関心を寄せている。

俺は昔も今も、そんな二人を見ているだけでしかないのかな。
いずれにしても、生きてまた一緒にいられるだけでも…いいかな…。

久しぶりに、何だか眠たいな…今は少しゆっくり、眠ろう…。

No04:理解と興味
No05:罪
No06:最後の誘惑
No07:理解者
No08:空白
No09:約束

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