Dripping of memories

君の十字架

No02:本気と冗談

機内は、まるで何事も無かったかのように静かだ。
パキッと、チョコをかじる音がいやに響く。

長旅だ、到着までにはまだ時間がかかる、分かってはいるが眠る事が出来ない。
自分で犯した罪くらいは、自分が一番分かっている。
イギリスに到着したからといって、その後…自由に身動きがとれる保証が無い。

ニアが大人しく機内へ入れたのは、必ず俺がここへ来ると、そこまで予想していたからだろう。
その後どうするかも、既にアイツは決めているはずだ。
…そう考えただけでもイライラする。

パキッ

まるで挑発しているかのように、ニアがチョコをかじる音がする。
チョコを食べる事などなかったお前が、一体何の為に今更それを食べる必要がある…

パキキッ

窓の外は暗い。見ていても、真っ暗で何も変わらない。
さすがに、ここにいるSPKメンバー全員を相手にして、勝てるほど身体的に強くは無い…。
マットはもともと動かない奴だから、加勢があったとしても無意味だろう。

どうするか…いずれにしても飛行機が着陸しないと何も出来ない。
この状況でハルが俺に有利な行動をとるとも思えない、銃口を向けたとしても状況は変わらなさそうだ。
問題は、ニアが俺をどうするつもりか、だ…。

チラッとニアの方へ目線をやると、間が悪くニアと目があってしまった。

「…」

すぐに目をそらして窓側を向くと、ニアは一度立ち上がり俺が座っている席から、ひとつ席をあけた場所へと座った。チョコと玩具を両手に持って。

「メロ」

その声に、思わず眉間にシワをよせ目を細める。
なんでこいつに名前を呼ばれるだけで、こんなにも気が散るのか。

昔からそうだった。
ニアを負かす為に勉強をしているというのに、わざわざ近くまで来る。
いつも必ず、俺から少し間をあけて…こうして座っている、それだけで気が散る。
チラッとでもニアを見ると、必ず目があう、そんなことばかり。
当時はケンカ腰でいたが、今の状況では、そうもいかない。

「…なんだ」

返事をするのが本当に、しゃくだ…返ってくるのは言葉ではなく長い沈黙。

施設にいた時も、いざ返事をしたって…この調子だった。
一緒に遊びたいのかと思って、遊びに誘った事もあったが、断られるばかり。
全く意味が分からない。
しかも1番を独占し続け、俺は2番からぬけることができなかった。
俺にどうしろっていうんだ…本当にイライラする。

すると、ニアは片手に持っていたチョコをパキッと食べながら言った。

「このチョコは好きですか?」

ジェバンニがその辺で買ってきたチョコレート、日本の菓子メーカーが作ったものだ。
これといって不味くはないが…マフィアにいた頃に、気に入って買わせていたのは、このチョコではない。

「俺がいつも食べてたのは、これじゃない」
「そうですか」

また長い沈黙の始まりだ。まさか到着までずっとこの調子じゃないだろうな?
舌打ちをして、食べ終わったチョコのゴミを、マットの座っている席に投げ込んだ。

「てっ…ゴミくらいそっちで捨ててくれよ…」

そう言いながら、頭の上に降ってきたゴミを捨てに席を立つと、メロの近くにニアが座っているのを見てマットは驚いて飛び上がった。

「うわっ!ニアいつの間にこっち来たんだ?…びびった…」
「いけませんか?」

「いや別に…でも、何してるんだニア?」
「メロと話してるんです」

「あ、そう…あんまり話し声とか聞こえなかったからさ…」
「話してるように見えるか?マット…」
「何を言ってるんですかメロ、冗談は格好だけにしてください。会話してたじゃないですか」

マットはニアのその一言に大爆笑、それをメロはギロリと睨むと、すぐに笑いは消え去った。
ニアは少しふてくされて自分の髪の毛をいじっている。

「俺の格好の何が冗談だ…ニア…」
「ま、まぁメロ、ニアもジョーク言うようになっただけだよ、ある意味すごいって…」
「ジョークではありません、本気です」

メロは組んでいた足を広げ、思い切り床にたたきつけながら立ち上がるとニアの目の前に立った。

「昔も今も365日ずっと代わり映えのしないパジャマ着てるお前に言われる筋合いは無い…」
「院を出たとたんに不良を通り越してマフィアに入った貴方に言われる筋合いは無いです」

バチバチと二人の視線の間に恐ろしい何かが見える…マットは両手を上げ下げしながら二人をなだめようと必死だ。

「いや…二人とも落ち着いて…そこケンカするような内容じゃないって…」

すると二人は同時にマットの方を振り向くと、禍々しいオーラを放ちながら声をそろえて言った。

「マット、黙ってろ」
「マット、黙っててください」

「は、はい…。」


「メロ、もうマフィアとは無関係のはず、でしたら着替えてください悪趣味です」
「あぁマフィアと俺は全く今は関係が無い…だがこのファッションは俺の趣味だ…!!!」

「悪趣味だと言っています。既にリドナーに着替えは用意させています、リドナーもってきてください」
「俺のファッションにお前に口出される筋合いはない!…ハル…お前…」

「メロ…これなんだけど…」

手渡された服をとりあえず広げて見ると、唖然とした。

「…あ"!?なんだこれは…」
「今すぐ着替えてください、私の目の前で」

・・・。

「ふ…ふざけるなぁぁぁああ!!!」

ニアの着ている服と同じ白いパジャマを渡されたメロは、それを勢いよく床にたたきつけると、息をきらせながらブルブルと手をふるわせた。

「どこまで俺を見下す気だニァァァァァ!!!」
「それはただの冗談です、気にしないで下さい。私が言いたいのはそんなことではありません。」

「じゃあ何が言いたい!!!」
「メロが生きていてくれて、良かったです」

ニアは薄ら笑みを浮かべながらそう言った。

「…ハ、ハハ…手柄が増えるからか…」
「手柄?あぁ、それなら大丈夫です。メロは死んだ事になっているので私は貴方を罪に問うつもりはありません」

「…冗談は存在だけにしろよ、ニア…」
「いいえ、冗談ではありません。もちろん存在も冗談ではありませんが」


まさか…、一体何を考えているんだニア…。
相変わらずお前は、謎ばかりだ。

No03:壊れた天秤
No04:理解と興味
No05:罪
No06:最後の誘惑
No07:理解者
No08:空白
No09:約束

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