Dripping of memories

君の十字架

No01:天使の微笑

「ニア!!!」

そう叫びながら、手に抱えているチョコをバラバラと落とし、物凄い勢いでニア達の泊まっているホテルの一室に入ってきたのはジェバンニだった。

「どうしたの?ジェバンニ、そんなに慌てて…」

息を切らしている彼の側にリドナーが近寄った。
ものすごい汗をかいている上に青ざめていた。

ニアは振り返る事無く、玩具で遊んでいる。

「とりあえず落ち着いて話してくれる?これではニアも分からないわ」
「メロが…!!!」

その言葉にニアは薄ら笑みを浮かべ、やっぱりと言わんばかりの顔で振り返った。

「メロに会いましたか?」

ジェバンニはチョコを机の上において、深呼吸した。

「あ、あぁ…だが、メロか?と尋ねたら、死んでいると言われ…まさか幽霊が見えるようになったんじゃないかと…死神がいるんだ…不思議は無い…!」
「いいえ、それはメロです。幽霊ではありません」

ニアは、はっきりとした口調でそう言うと、フフッと小さく笑った。リドナーは、まさかと思いながらも尋ねた。

「じゃあ、メロが生きていると?」
「そうですね」

「で、でも焼け跡からはメロが常に身に着けていたものと思われる物体が…」
「逃げるときに落としたんでしょう」

「じゃあ、あの身元不明の死体は…?」
「恐らく焼け跡から一緒に出てきた焼死体は、メロではなく全く別の人間。高田を助けようとして巻き込まれたのではないかと思われます。丁度その日に、付近で行方不明になった警官がいるそうですし。そしてメロは何らかの手段を使ってそこから逃げている。」

ニアは不敵に笑うと、チョコを手に取り、パキッと音を立てて食べ始めた。

「メロは死んだ、でも生きている…いいじゃないですか、それで。生きていても私に連絡をするようなことはしないでしょうし、別にどっちでもいいです。」

手に持っているチョコを食べ終わると、ニアは笑顔でこう言った。

「では、帰りましょう。」
「メロを探さなくて良いのですか?」

「ええ、彼は死んだという事で構いません。それに私には三代目Lとしての仕事がありますから、メロを探している暇はありません。」
「では、すぐに飛行機の手配をします」


その頃、偽造パスポートを受け取ったメロとマットは、空港で時間を潰していた。
マットの遊んでいるゲームのピコピコ音が静かな空間に響き、メロはチョコをかじりながら椅子にもたれている。

「日本からロスまで12時間くらいか、長くて退屈そうだ」
「お前はどうせ、ずっとゲームやってるだろ」

「まぁそうだけどさ、そう言うメロはずっとチョコ食べてるだろ?」
「どうだかな」

残り数枚のチョコをパキッとかじり続けている。
マットはチョコが必ず足りなくなると確信していたが、もうチョコすら買う金はない。
更にメロは不服そうな顔をしながら、飛行機のチケットを片手でつまみペラペラとなびかせた。

「で、なんでエコノミークラスのチケットなんだ?」
「いや、俺そんな金ない上に、偽造パスポートだって高かったんだ。むしろ飛行機で帰れることを喜んでくれよ」

メロはムスッとしてチョコをかじりまくった。
くそ、早いとこ金を稼がないと…いや、あせることは無い。マットも一応はワイミーズハウスのNo.3だし、それなりの人脈くらいあるだろう。

「マット、ロスについたらまず住む場所を用意しろ」
「は!?俺そんな金ないし!むしろこっちに来る時にいろいろ売って来ちゃったから何も無い…」

「あてになる人もいないのか?」
「うーん、ロジャーくらいか?」

ダメだこいつ。

「仕方が無い、一度イギリスに行く」
「は!?持ち金の問題考えてよメロ…」

「電話しろ、ロジャーに」
「え、俺が!?」
「何度も言わせるな」

メロの鋭い眼差しにビクビクしながら、ロジャーに電話をかける…昔からメロの使いっぱしりな気がしてならない。あまり気はすすまないが、ロジャーなら力を貸してくれるだろう。

「あ、ロジャー…久しぶり!俺、マット…今、メ…」

と次の瞬間、メロはマットの口をふさぐと、ジェスチャーで俺の事は言うなとマットに伝えている。マットは慌てて話題を変えた。

「実は今、日本に来てるんだ、うんそうなんだ。キラ事件でちょっとね…あ、いやそれは俺じゃなくて俺の作ったアンドロイドのマットクンだよ。え、いや勝手に学校の資金を使ったわけじゃなくて、いやまぁそうなんだけど。いや違うよ勝手に研究室使ってないよ、たぶん。いやロジャー!とりあえず俺そこに一度行きたいんだけど、飛行機に乗るお金がないんだ。うん、うん。え、ニアが!?…それはちょっと…え、いやまぁそうなんだけど、でもなんていうか…あ、分かった、じゃあそうする…」

ピッと携帯電話をきると、マットは言い難そうな顔でメロを見るが、マットが話すまでもなく、何となく察しがついたメロは眉間にシワをよせ、チョコレートをバキッと割った。

「ニアの乗る飛行機に一緒に乗れってか…」
「あぁ…どうする?」

「乗るしかないだろ」
「メロ、お前どうすんの?」

「ハルに連絡をとってみるか…」
「リドナーか?平気なのか?」

「あぁ、たぶんな…俺の事は気に入ってるらしいしな」
「やっぱできてたのか」
「違う」

メロは携帯電話を取り出し、リドナーに連絡をした。電話に出たリドナーは動じる事もなかった。

「ハル、今からお前達の乗る飛行機に俺達も乗る事になった」
「…場所を移動するわ」

リドナーは場所を移動して会話を続けた。

「ニアの言っていたことはどうやら本当のようね」
「なんだと?」

「ニアは貴方が生きていると、そう言っていたわ」
「そんなことはどうでもいい、いやむしろ都合が良いか」

「その飛行機に貴方以外に誰か一緒に乗るの?」
「ああマットという男だ。恐らくニアあたりにはもうロジャーから話がいっている。ただ俺に関しては死んでいる事になっている、分かるな?」

「隠れて乗り込みたいっていうことね…分かったわ。」

その後、マットとメロは別々に行動することになった。

「本当にあの女の言う事は信用できるのか?」
「たぶんな」

「まぁこれしか今は方法ないっぽいし、そうするか。メロ、あっちで会おう」
「ああ」

マットは先にロジャーに指定された場所へと向かい、ニアが乗っている飛行機に搭乗した。
飛行機内に入ってきたマットには全く興味を示さず、一人でパズルで遊んでいた。

(ニアも相変わらずか)

そう思いながら、自分の席に座った。小型飛行機を貸しきっている…もちろん飛行機内にいるのはニア達とマットだけ。メロは大丈夫だろうか?そんな心配をしながらタバコをふかしてゲームをしていると、急にニアが顔を覗きこんできた。

「うわ!…な、何?ニア」
「何か気にかかることでもありますか?」

やばい、何気に悟られてるのか?いやありえない、俺はずっとゲームしてるし…メロなら大丈夫だ。
とりあえずニアには他愛も無い話でもしておくか。

「いや、このゲームのラスボスが強いから作戦を考え中なだけ」
「そうですか、相変わらずゲームが好きなんですねマットは」

ニア、俺の事なんて覚えてたのか。てっきり眼中に無いものだと思っていたけど意外だな。

「まぁ、俺って外で遊ぶのとか好きじゃないしね。ニアもだろ?」
「はい、そうですね」

「あと、禁煙なのでタバコは消してください」
「分かった」

口に加えていたタバコの火を消して、何もなかったかのようにゲームを再開した。
それに満足したのか、ニアは自分の席に座りなおした。
ふぅ、ニアの目はいろいろ見透かされてる気がして怖いんだよな…。

その頃、メロはリドナーの協力で、誰にも悟られることなく飛行機に隠れ乗り込む事ができていた。

「ここなら大丈夫よ。私が見回る場所でもあるから安心していいわ」
「おい、俺を殺す気か?どうみても飛行機の胴体外だろ」

メロは小さな荷物置き場へと案内された。薄暗い場所に荷物が無造作にいくつか置いてあるだけ。ここに10時間以上いるのか俺は…まぁ仕方ない。
自分の荷物を背中において、渡された毛布をかける。窮屈だが何とか我慢できそうだ。

「大丈夫よ、胴体部との節目みたいなところだし。じゃあ、私は行くわね」

そういうとリドナーはメロの側から離れ、メロのいる荷物置き場のドアを閉めた。
機内にはニアもいるのか…そう思いながらメロは目をつむった。

長い飛行時間。出発して1時間足らず。
荷物置き場は全く快適ではない、とても寒いし今にも凍りそうだし、エンジンの騒音が酷い。
正直なところ、これではイギリスに到着した後にすぐ動けるかどうか分からない、むしろ俺は生きているのか?溜息をつくと、白い息が出るし酸素も薄い。
乗客が乗っている飛行機の胴体部とは違い、ここは何も完備されていないに等しい、分かってはいたが10時間以上ここにいる自信がない。ハルの奴、分かっていながら俺をこんな場所へ…死にはしなさそうだが、明らかに動けなくはなる。それが狙いか?

我慢できなくなり、そっとドアを開けて荷物置き場から出てみる、誰も居ないようだ。もう少し胴体部に近い場所へ移動しよう。

静かに進んで、小さなキッチンに入る。とりあえず今はここで…さっきいた場所よりははるかにマシだ。あぁ、チョコが食いたい。そう思い、近くの引き出しをあけると大量のチョコが入っていた。
まさか、何故ここにチョコがあるんだ…あぁそういえばジェバンニがチョコを大量に買っていたな。
あいつがチョコが好きだなんて、なんか意外だな…。

そう思いながら、1枚手に取り、ペロペロとなめはじめた。

だがずっとここにいては、見つかるのも時間の問題か…どうするか考えていると、そのキッチンへ誰かが入ってきた。思わず固まる。

「ッ!?」

メロを見た相手はマットだった、思わず声を出しそうになったようだが、自分で口をふさいでいた。
その後、メロに近づき小声で尋ねた。

「メロ…ここで何してるんだよ…」
「他に隠れる場所を探してくれ、荷物置き場はダメだ。」

マットは冷や汗をかきながら、前後左右をキョロキョロとした。

「いや…小型飛行機だから最低限のものしかないし…隠れるつったって…」
「マット、お前の席の周りは誰がいる?席の配置と乗客人数を教えてくれ」

「操縦席に操縦士が二人、前から席は4、それが6列ある。一番前にはニア。一人で二席を占領して玩具で遊んでる。その二列後ろにアンソニー・レスター、その後ろの席にハル・リドナー、更にその席の後ろにステファン・ジェバンニだ。俺はニアの真後ろの席…どうするんだ?」
「ここに来る可能性がある奴は?」

「どうだかな…俺は今、飲み物とりにきただけだけど…長旅だし他の連中が来ないとは言えないな。ただニアは自分では動かないから、来るとしたら他のメンバーだろう」
「あぁそうだな」

「あんまり俺もここに長居しているとまずい」
「ハルにはメモで俺がここにいることを伝えておいてくれ」

マットは静かにうなずくと、その場から出て行った。

さて、どうするか…マットとハルならまだしも、他の二人はまずい。
いやジェバンニは俺の事をどうせ一度見ているし、適当にあしらうことはできるかもしれないな…。
チョコをペロペロとなめながら、思考を廻らせる。

その時、物凄い勢いでマットがそこに戻ってきて、メロにジェスチャーで何かを訴えている。
何を伝えたいんだ…?だがこの様子だと誰かがここに入ろうとしてきているんだろう。
まぁジェバンニなら何とかなるかもしれない。そう思っていると信じられない声がした。

「マット、どいてください。私はチョコをとりにきたんです」

まさか、その声はニア!?チョコ食べるのか?いずれにしても自分でチョコを取りに来るとは思えない。

「ニア、俺がとってくるって!」

マットはニアがいるであろう方向をむいて、会話をしている。
このあせり方では、逆に怪しまれるだろ…

「もうここまで来ましたから大丈夫です、どいてください。それとも見られたくないものでも?」

メロは左右を見たが、ただでさえ狭いキッチン。隠れる場所があるわけがない。
溜息をついて、チョコをパキッとかんだ。
その音に、ニアの動きが一瞬とまった。

「もういいマット、どうせバレてる」

メロはそう言うと、鋭い目つきで豪快にチョコを食べ始めた。
ニアは自分の髪の毛をくるくると指にからませながら、マットの立っている場所からひょっこりと顔を出した。

「メロ、やはり生きていたのですね」
「あぁ、たぶんな」

立ち尽くすマットの前をとおり、静かにニアがメロの目の前に現れた。
相変わらずの無表情。ファッションも寝間着のまま、変わらないなニアは。

「そんなところにいないで、中に入ればいいと思いますが?」

ニア…分かっていながら白々しい。
もうこいつに見つかっては意味が無い、ここは大人しく言う事を聞くか。

「あぁ、じゃあ遠慮なく中に入らせてもらうよ、ニア」

チョコをかじりながら、堂々と歩いて中に入っていくメロの後ろから、マットは気まずそうについていった。

「!?」

ニアの後ろにいるメロの存在に、周囲が驚くのは…無理も無い。

「メロの好きな場所にどうぞ」

ニアがそう言い終わる前に、メロはニアの座っている一番前の席の反対側にドカッと座った。
マットは、ニアの後ろの席から、メロの後ろの席に移動してゲームをし始める。
メロの座っている前席に後ろから乗り出して、小声で会話を始めた。

「まさかニアが動くとは思わなくて…」
「もういい、イギリスに無事につければな」

こうして、イギリスへと飛行機は飛んで行った。

No02:本気と冗談
No03:壊れた天秤
No04:理解と興味
No05:罪
No06:最後の誘惑
No07:理解者
No08:空白
No09:約束

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