Dripping of memories

君の十字架

No00:堕天使の復活

全ての決着が終わった後に、ハル・リドナーからメロについての話を聞くとニアは首をかしげた。

「本当に、メロだったのでしょうか?」

状況から考えて、ひとつは高田のもので、もうひとつはメロのものだと考えるのが普通である。

「ええ、身元不明で処理されてしまったけれど…メロのはずよ」

恐らく認めたくないのだろう。皆そう思っていた。
ニアは髪の毛をくるくると指に絡ませながら、遠くを見ている。

「チョコが食べたいです」

意外な言葉に、一瞬にして場の空気は固まった。

「…すぐに買って来ます」

ジェバンニはそう返事すると、すぐにその場を後にした。

「ええ、お願いします」

本当にメロは死んだ…?本当に?
まるで死んだ感じがしないのは私の気のせいなのでしょうか?

そんな思考を廻らせるニアは、パズルのピースをなくしたかのような気持ちでいっぱいだった。


とある小さなホテルでは、浮かない顔をした二人の青年が身を潜めていた。

「ニアに知らせなくていいのか?」

ゴーグルをつけたままゲームをしている青年が、窓越しに外を見ている青年にそう尋ねる。

「いい」
「即答か…まぁ俺はいいけど」

ゲームをし続ける近くで、ずっと外を見つめながら、パキッと音をたて、チョコを食べている。
ふと何か目覚めたように、ゲームをしている青年に目をやった。

「そんなことよりもマット、俺は何故、生きている?」
「ああ、それね…俺も、まさか本当に生き返るとは思わなかったんだけど」

「全部話せ」
「はいはい…」

それは俺の大事なアンドロイド「マットマン」が壊されたところから始まる。
まさか日本がこんなにも変わっているとは正直思わなかったが、自分で外に出るのが面倒で用意してきていた、俺とそっくりのアンドロイド「マットマン」のおかげで、俺は死ぬ事はなかった。

「いや、お前が生きている理由が知りたいんじゃない」
「分かってるよ、でもまずは聞いてくれって」

で、俺が何年もかけて作ったマットクンの声はリアルタイムに別所から俺がしゃべってた、遠隔操作で動かしていたんだけど、マットクンを車から出させた瞬間に銃声だぜ?酷くね?

流血装置も搭載済だったし、遠目に見ていた人たちは本物の人間だとしか思わなかったみたいでさ。
後で解剖した奴らは、それがロボットだって気づいたみたいだけど、研究の為に極秘で持ち出したらしくて、表では俺が死んだ事になってる。ある意味ありがたいことだけどね。

で、俺はマットクンが壊されちゃったの分かったし、さっさとメロの後を追尾したわけ。

メロがやろうとしてたことは全部知ってたし、前もって発信機もお互いつけてたおかげもあって、場所の特定はすぐできた。

準備しておいた例のトラックにも盗聴器もつけてたわけだけど、しばらく盗聴してたら、お前の拉致した高田って奴が誰かと会話してるから、お前の事を殺したんじゃないかと思って、やばい!って立ち上がったら、目の前に消しゴムが落ちて来たんだよ。

「消しゴム?」
「デスイレイザーって書いてあった」

よく分からないけど、俺はそれ持って表でて、高田のいる場所に入ったら、震えながら手に変な紙を握り締めてるから、取り上げた。たぶんメロの本名っぽいの書いてあったから、もしかしてデスノートの切れ端かと思ってさ。
現に運転席のお前は呼吸とまってたし…。

いずれにしても発作的に、気づいたらその名前を手に持ってた消しゴムで消してた。
消し終わったら、その消しゴムは急に砂になって消えたんだ。

近くにいる高田の様子がおかしいから、キラに操られてるのかと思って、急いで運転席にいるお前を抱えて逃げてきた。

そしたらトラックは炎上するし、ハルが来るしで…
俺、大ピンチ!とか思いながら逃げたわけ。

逃げる途中に警官に会っちゃって、関わると面倒そうだから、燃えてるトラックの中に高田様がいるって伝えて場をしのいだ。
そしたらその警官、燃えさかっている炎の中に飛び込んで助けに行っちゃってさ、ぶっちゃけあれは燃え死んだだろうなー、直後に爆発してたし。

で、しばらくしたら死んでるとしか思えなかった、お前が急に目をかっぴらいたから、俺ビックリ!腰抜けそうになったし…

「それで、俺が生きてるってことか…?」
「まぁ、そうなんじゃないの?」

「まさか…デスノートに書かれた人間の死を止める方法があったというのか?」
「良く分からないけど、そうなんじゃないの?」

しばらく沈黙していると、マットがゲームをやめてメロの方へ目をやった。

「でも、メロが死ななくて良かったよ」
「…ああ、お前も、生きてて良かった」

二人はニヤッと笑いあった。
しばらくしてメロが、ふと疑問をなげかけた。

「で、そのデスイレイザーだが詳しい事は分かるのか?もしかしたら一時的に生きているだけということは?」
「ん?ああ、一応、消しゴムにご丁寧に書かれていた内容は全部覚えてるよ」

・デスイレイザーでデスノートに書かれた名前を消せば生き返る。ただし、遺体が蘇生できる状態でなければ効果は無い。
・人間界で人間がデスノートを使って1000人殺すごとに、デスイレイザーが1つ出現する、出現場所は1000人目の身近な人物の手元。
・24時間の間、誰にも拾われることがないと砂になる。
・1度デスノートに書いてある名前を消す行為に使うと、デスイレイザーは砂になり二度は使えない。

「ふぅん…ある意味、賢者の石みたいなものか…?」
「メロがそんなファンタジーなアイテムの存在信じるんだ?」

「現に自分が生きているからな、仕方が無い」
「仕方が無いって…」

マットはゲームを再開すると、話を続けた。

「それより、これからどうする?」
「あぁ、ニアは俺がこうすることを知っていただろうから、全て予定通りにいってるだろうな」

「キラが捕まったってこと?」
「ああ、俺の考えが正しければ、デスノートは二冊ともニアが一時的に所持した後、焼却するだろう」

パキッとチョコをかじりながら、悔しそうな目をしている。

「ふーん、そっか。メロ行くあてあんの?」
「…そんなものは自分で探す」

「てか、メロはずっとリドナーのとこにいたんだよね?いいなぁ、あんな美女と一緒に暮らせて…」
「お前、何を想像してるんだ?…」

メロはチョコをペロペロなめながら、マットを見た。

「お前は?」
「俺?俺どうしよっかなぁ、メロみたいに彼女もいないし…」

「彼女じゃない」
「とりあえずアメリカ帰りたいかな」

「じゃあ帰るか」
「え、一緒に?」

「パスポートくらい偽造できるだろうな?」
「あぁ、まぁ…でも俺、服装変えた方がいいかも…あんなドハデにTVに映し出されちゃってるから、マットクンと同じ姿で出たらマジで殺されそう…」

「あぁ、そうだな」
「メロ買ってきてくれるよな?」

「俺が?日本の通貨はもっていないな」
「あぁ…それなら俺のもってるの渡すからさ、頼むよ」

「まぁ借りがあるからこれくらいはしてやる、が今のうちにパスポートは何とかしておけ」
「はいはい…」

マットから金を受け取ると、軽い足取りで部屋を後にした。

もう俺がメロだと気づく者は、いないだろう。
ニアが全部うまくやってくれたと確信している。
それに、ニア達は俺が死んだと思っているはずだ。
キラを捕まえたら、すぐに日本から出るに違いない…。

俺には行く場所もない。
ニアに全てを託したから…もう俺は、この世界の何でもない。

前向きに考えれば自由だ。

今まで俺を縛ってきた、何かが全部なくなった気分だ。もう、競争することはない。俺は俺のやれることをやった、命をかけて。

一度、俺は死んだんだ。そして、俺は復活した。
例えるならキリストの復活とでも?いやそれは言いすぎだな。

ニアが天使なら、俺は堕天使だ。
それくらいに相反した存在同士。

ああ、もう考えるのはやめよう。マットと二人でアメリカに帰って、毎日チョコが食べれればそれでいい…俺は生きている。
これからの生き方は、ゆっくり考えればいい。

そんなことを考えながら道を歩いていると、目の前から歩いてくる男が突如立ち止まり、目を丸くしてこちらを見ている。
両手に抱えきれないほどのチョコを持っている。
一人で食べるのか?
それにしてもこいつ…どこかで見た覚えがあるな。
男の目の前を通り過ぎようとした瞬間。

「メロ…!?」

そう言われ思わず立ち止まり一瞬にして目つきが鋭くなる。
誰だ?俺の名前と顔を一致させることができる人間はニア達以外にいるわけがない。ということは、こいつは…

「…SPKのステファン・ジェバンニだ。」

自ら名乗ってきたか、ニアの差し金か?いや俺の生存を知っているのはマットだけのはずだ。

「メロ…生きていたのか?」

死んだはずの俺が目の前にいるのが信じられないのだろう。だとしたら、しらばっくれてみるか?いや、さすがにこの火傷の痕を見られているし、不自然すぎるか。

「悪いが俺は死んでいる」

まぁこれも事実だ、幽霊を見たとでも思っておけ。
ジェバンニは金縛りにあったみたいに硬直している。
本当に幽霊だと思ってるのか?こいつ。

いずれにしても長居は無用だな、そのまま歩いて離れていく。
ついてくる様子もない。
さっさとマットの着る服を買って戻るか…。

適当な店に入り、服を選ぶ。
どれもこれもダサいのばかりだな…まぁマットが着るんだ、何でもいいか。

ついでにチョコも買って、マットの待つホテルに戻る。
ドアを開けると、さっきと同じ場所でゲームをしているマットがいた。よく飽きないで一日中ゲームをしていられるものだ。

「マット、買って来たぞ」
「サンキュ!」

すぐさま袋から洋服を出すと、身に着けていた服を脱いで着替え始めた。まるでその服を早く捨てたいといわんばかりに。相当、怖かったんだな…。

「あぁー、良かった!これで安心だ~」
「で、そのゴーグルはつけっぱなしにするのか?」

「え?ああうん」
「で、パスポートの準備は?」

「できてるよ、今日の深夜3時に渋谷で受け渡し」
「分かった」

買ってきた板チョコをかじりながら、小さいベッドに横になる。

「少し寝ていいか」
「ん?いいよ。俺、見張ってるし」

マットのその言葉に安心して、俺は目を閉じた。
ニア…これで満足か?お前はLとなり世界を牛耳る。
俺はお前に届くことなく、この世界で生きて行くんだ…。
もう、会う事もないだろう、ニア…。

No01:天使の微笑
No02:本気と冗談
No03:壊れた天秤
No04:理解と興味
No05:罪
No06:最後の誘惑
No07:理解者
No08:空白
No09:約束

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